どうも、身長は約170cm、おうち菜園の江里です。
新コーナー「おうち菜園な人」では、家庭菜園を自宅で楽しんでいる人、もしくはそれをサポートすることで”育てて食べる”という行為をワクワクするものに変えている人を紹介していきます。第1回目は、「日本アクアポニックス」代表のアラゴンさん(Aragon St-Charles)。
おうち菜園ではすでに何度か取り上げている農法、アクアポニックス。魚と野菜を同時に育てる循環型農法で、いわば”家庭用ビオトープ”とも言えます。この農法がいま、「未来の農業」として海外で話題になっているんです。
一方、日本ではまだまだ知られていません。そんな中、この農法を日本で広めようと活動しているのが、日本在住のイギリス人、アラゴンさん。3.11をきっかけに「日本アクアポニックス」を設立し、日本全国の個人宅や学校へのシステム設置サポートを行っています。
関連記事:まさに家庭用ビオトープ。海外で話題の循環型農法「アクアポニックス」とは
今回は、アラゴンさんがこの農法に出会ったきっかけや、それに感じる可能性についてお話をうかがいました。
「アクアポニックスってなに?」と思った人は、記事中に”関連記事”へのリンクを貼っていますので、それも併せて読んでいただけると理解が深まると思います。
インタビュー・文:江里祥和
江里 お久しぶりです。今日は短い間ですがよろしくお願いします
アラゴンさん(以下、アラゴン) こちらこそよろしくお願いします。
江里 まず最初に、アクアポニックスに出会ったきっかけについて教えてください
アラゴン 今から20年前の大学時代にさかのぼります。当時イギリスでは、特に年配の方を中心に環境への関心が高まっていて、”アロットメント”と呼ばれる市民農園も流行っていました。
アラゴン このときに私も興味がわき、色々と情報収集をしていたときに、ヴァージン諸島(カリブ海の島でイギリスの自治領)での研究資料に出会いました。そこに、アクアポニックスについて書かれていたのです。
関連記事:アクアポニックスの歴史(古代〜現代)ーー循環型農法の軌跡を1000年前から振り返る
江里 大学の学部がそうした環境系だったのですか?
アラゴン いえ、学部は哲学・法律だったので、全く関係はありません。昔から農家のコミュニティで育ってきたので、そうした分野にはずっと興味を持っていました。
江里 その頃からアクアポニックスへのめり込んでいったのですか?
アラゴン そうですね。自分なりに小型のキットを作って色々と試していました。今でこそかなり知名度は上がってきていますが、20年前は、2~3つの大学がアクアポニックスを対象に研究に取り組んでいるくらいでした。
江里 日本に移住してきたのはいつ頃なんですか?
アラゴン 今から9年ほど前です。移住して3年後くらいから、アクアポニックスの可能性について色々なフォーラムで人に話すようにしていきました。
きっかけは、3.11
江里 「日本アクアポニックス」を設立しようと思った理由は?
アラゴン きっかけは、2011年に起こった震災です。それまでは、自分の本業(法律関係)と並行して少しずつ進めていこうと思っていましたが、とある大学の関係者に「いますぐに会社をつくって始めるべきですよ」と言われ、それに後押しされる形で、震災の3ヵ月後の6月に設立しました。
江里 実際に東北にシステムを設置されていますよね
アラゴン そうですね。津波による塩害や放射線物質による被害を受けている被災地に、アクアポニックスが役立つと感じたんです。
※東北にシステムを設置した際の映像。10分と長いですが、アクアポニックスについてアラゴンさんがわかりやすく説明してくれています。
教育ツールとしての可能性
江里 システムは全国に設置されているのですか?
アラゴン 今まで全国に設置してきたシステムの数は、30ほどです。うち、半分は学校です。
江里 実際に設置を行うなかでの人々の反応はどうですか?
アラゴン 特に子供の反応がいいです。植物は動きませんが、魚であればちょこちょこと動く。子供たちの好奇心をかき立てますし、面倒を見ようとします。さらには、魚と植物の循環を通して”小さな生態系”を肌で学ぶこともできるので、環境系の教育ツールとしての可能性を強く感じています。
アクアポニックスの栽培キットについて
江里 海外で続々誕生している栽培キットについてはどう思いますか?
アラゴン デザインはかっこよくても、それがちゃんと機能するかどうかが重要です。良い製品がある一方で、悪いものもある。その結果として「この製品はダメだ」となれば仕方がないことですが、「アクアポニックスがダメだ」と思われるのが一番悲しいです。この農法の可能性は、まだまだ十分に人々に伝わっていません。
ただ、新しい市場の成長段階として、良い流れだとは思います。今は、”良い製品”と”悪い製品”が振り分けられている段階でしょう。
関連記事:家庭でビオトープを楽しめる!米国で登場しているアクアポニックス栽培キット3選
必ずしも「小規模=手軽」ではない
江里 機能面ではどういった部分が課題になるのでしょうか?
アラゴン すごく難しいのが、システムの大きさと管理負担のバランスです。水量が多ければ多いほど水質が安定するので、それによって日々の管理負担が軽減されます。ただ、そうするとシステムが大きくなり設置ハードルが上がる。”収穫”というレベルの量が欲しいのであれば、最低でも1㎡の広さは必要です。でも、そうなると「場所がない」という声が多くなるでしょう。
一方で、システムを小型化すると気軽に家庭に置けるようになる反面、水量が少なくなるので管理負担が増します。水質が急激に変化しやすいのです。魚が死んだり、植物が枯れたりするというのは一番避けたいところです。
江里 栽培者がしっかり管理することが重要なんですね
アラゴン そうですね。海外では、「水換え不要」というフレーズで、いかに簡単に、手軽に管理できるかをアピールしていますが、それを実現するのは現時点ではかなり難しいと感じています。栽培者が毎日しっかり魚や植物の状態を観察し、水質チェックを行うことは必須です。ただ、そうした過程で自然の生態系を学べるというのが、アクアポニックスの一番の魅力なのです。
江里 それを子供が管理すれば、夏休みの自由研究にもなっていいですよね
アラゴン まさに。今までの設置で子供の反応が良いことは実感しているので、親が栽培キットを買って、子供も一緒になって管理をする。そんなイメージを持っています。
日本の技術力は評価されている
江里 今後の活動について教えてください
アラゴン まだ詳細は語れないものが多いのですが、現在学校の運動場の一部を利用して大規模なアクアポニックス施設をつくるプロジェクトが進行中です。他には、汽水域(河と海が合流する部分)をシステム内で実現することで、海水魚を飼育できるようにすることも目指しています。日本人は、淡水よりも海水魚をよく食べますから。こうした新しい技術を確立していくなかで、それをまた東北に持っていきたいと考えています。
海外から見ると、まだまだ「JAPAN」というブランド価値は高いです。「技術力が高い」というイメージが強いので、実際、海外からの問い合わせも多くもらっています。日本は、すでにあるものを改良して素晴らしい価値に変える力を持っているので、いくつかの大学と連携しながら、日本で新しいアクアポニックスの形を生み出していきたいです。
江里 今日は、お忙しい中ありがとうございました
アラゴン こちらこそありがとうございました。
インタビューを終えて
ぼくがアラゴンさんと出会ったのは、去年の7月。1年間の旅から帰国して、自作アクアポニックスを自分の部屋用に自作しようとしていたときに、色々とアドバイスをいただきました。
関連記事:費用は約2万円。自作アクアポニックスの作り方を説明します
ぼく個人としても、アクアポニックスの大きな可能性のひとつとして、”教育”を強く感じています。手軽に管理できることや、デザイン性が高いことも重要ですが、それ以上に、人々がアクアポニックスに触れることが、そのまま自然の生態系に触れることに繋がることで、消費者と”食”の結束が強くなるはず。
なによりの事実として嬉しいのは、異国からやってきた人(アラゴンさん)が、ただでさえ本業で忙しい中でこれだけの活動をしてくれているということ。おうち菜園としても、「日本にアクアポニックスを広めたい」という想いは同じなので、良い形でアラゴンさんとも協力しながら可能性を広げていけたらと思っています。
アクアポニックスについて、まだまだ「?」マークが多い人は、おうち菜園内で記事を書いていますし、「アクアポニックス」と検索すれば関連情報も見つかるので、ぜひ一度調べてみてください。もちろん、コメントもお気軽に。
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