どうも、ズッキーニがけっこう好き、おうち菜園の江里です。
皆さんは、家庭菜園にSNSがあるって知っていましたか?今までにMixiやFacebook、Twitterなど様々なSNSが登場してきましたが、実は家庭菜園に特化したものが2012年3月にリリースされています。
サービス名は「Cropnet」(クロップネット)。育てている様子を日記感覚で共有したり、わからないことがあったらユーザー同士で助け合いをしたりと、家庭菜園の楽しみを他者と共有したい人にはピッタリな場です。
今回お話をうかがったのは、このサービスの生みの親、早野禎一さん。「なぜCropnetを作ったのですか?」と聞いて返ってきたのは、大学時代に庭でやっていた家庭菜園のお話。ここにきっかけがあったそう。
ネットに転がっている情報ではなく、自分の”原体験”を大切にしたことで生まれた家庭菜園SNS、Cropnet。皆さんも、この記事をきっかけに自分の人生を振り返る時間を5分でも10分でもつくってみてください。そこで、埋もれていた大切な”原体験”が見つかるかも。

Cropnet事業責任者の早野さん
収穫の喜びを共有できなかった大学時代
江里 そもそも、「Cropnet」はどんなきっかけで生まれたのでしょうか?
早野さん(以下、早野) 新卒で入った会社での新規事業プランコンテストへの応募がきっかけです。このときにいくつか案があり、その中に「Cropnet」も含まれていました。
江里 そうだったんですね。当時から「家庭菜園SNS」という構想はあったのですか?
早野 当時はまだFacebookはそこまで流行っていなかったですし、”SNS”という言葉も浸透していませんでした。ただ、”家庭菜園SNS”という具体的なイメージはないなかで、人と人が繋がることで生まれるコミュニティには可能性を感じていました。

本社(株式会社シーエーシー)前にあるCropnetの菜園コーナー
江里 作ろうと思った具体的な出来事があったのでしょうか?
早野 大学時代に庭でやっていた家庭菜園ですね。ナスを収穫したときのことを今でも鮮明に覚えているのですが、その喜びを共有できる相手が周りに誰もいなかったんです。
江里 その不満、いや想いが「Cropnet」の原動力となるんですね。
早野 Cropnetの事業計画書を書いているとき、「そもそも自分はなぜこれをやりたいのだろう?」とふと思って。そのときに大学時代のこの経験が蘇ってきました。
幼い頃によく行っていた熊本の畑
江里 いまでこそ「家庭菜園の早野さん」というイメージができていますが、元々農業には強い想いがあったのでしょうか?
早野 小さい頃から両親の実家がある熊本で農には触れていました。祖父母や親戚のおじさんが趣味で野菜をつくっている姿を見て、畑にも小学校の頃から入っていました。当時(20年前)は東京でゴーヤをほとんど見かけることがなくて、「不思議な野菜が熊本にはあるんだなぁ」なんて思ったこともありましたよ。

photo credit: Jérôme Decq via Flickr
江里 幼い頃から身近に農があったんですね。大学では農学部に進学されていますが、やはりこの熊本での環境がベースにあったのでしょうか?
早野 そうですね。高校時代のクラスメイトで農学部を選んだのは僕くらいでしたが、自然と選択肢にあがってきた学部です。
微生物に可能性を感じて土壌研究室へ
江里 東京大学大学院では土壌の研究をされていましたよね?ここについても詳しく教えていただけますか?
早野 はい。そもそものきっかけは微生物です。とある本を読んでいたときに、1997年に起きた重油流出事故が紹介されていて。島根県隠岐島沖の日本海にロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」が座礁してしまい、そのときに大量の重油が海に流出し、一部が海岸漂着した話です。
このとき注目されていたのが、”石油分解菌”でした。重油で汚れた海岸が微生物で綺麗になると知って「これはすごい!」と可能性を感じ、関心を持ち始めました。
江里 すごい!石油を分解する菌とは。知りませんでした。
早野 その後、農業の雑誌を読んでいたときに知ったのが”窒素分解菌”です。窒素については、高校時代は「空気にたくさん含まれている」という感覚しかなかったのですが、植物の生育に必要な大事な要素だと知りました。ただ、窒素肥料を入れすぎて土壌が”窒素過多”になり環境汚染を引き起こしている、という話がありました。
江里 今度は農業分野で活躍する菌ということですね。土壌に増えすぎた窒素を分解してくれると。
早野 そうです。ここで幼い頃の熊本での農体験が重なり、土壌微生物という分野に足を踏み入れました。

研究室での様子
全く知らない分野で挑戦したかった
江里 ただ、早野さんが新卒で入社した会社(株式会社シーエーシー)は、農業ではなくIT分野ですよね?なぜ土壌微生物研究からIT業界に?
早野 全く知らないことに挑戦してみたかったんです。違う分野で知識、スキルを磨きたかった。
江里 当時だと5年ほど前でしょうか。まだまだ農業とITというのは結びつかない分野だったのでは?
早野 そうですね。今でこそ盛り上がってはいますが、当時はあまり結びつかないアイデアでした。
江里 それが新規事業プランコンテストへの応募をきっかけに、家庭菜園SNSが誕生となるんですね。

Cropnet運営メンバーと一緒に(2013年撮影)
運営して2年、いま感じること
江里 リリースから2年が経ちましたが、振り返って感じることはありますか?
早野 Cropnetは「ライフスタイルに彩りを」というテーマで運営しているのですが、最初は野菜や菜園ネタが多かった投稿内容が、最近では”生活”に広がってきました。
「野菜を○○さんにあげたら喜んでもらえた」「自宅ではこんなふうに活用している」など、家庭菜園をきっかけにユーザーの生活が豊かになっているように感じています。
江里 去年の11月には、東京で初のユーザー会も開催しましたよね。僕も参加させていただきました。やっぱり、リアルの場はすごい。とても楽しかったです。
早野 投稿内容の広がりはユーザー会前から感じてはいたのですが、この会でみんながリアルに楽しんでくれていることがわかってうれしかったですね。放映でも使用されていましたが、参加者の方が「同窓会みたい」と言われたのが印象的でした。
江里 不思議な環境でしたよね。すでにSNSで親しくなっていた参加者同士が、リアルの場でさらに仲を深めるという。参加者が「あ、○○さんですよね?」とユーザー名で呼び合う光景もよく見られました。

当日はユーザー同士での”おすそわけ会”も開催されました
早野 ユーザーにしっかりと運営メンバーの顔を見せることができたのも大きかったと思います。「こういう会をもっとやってほしい」という声はたくさんいただいていて嬉しい限りなのですが、最終的にはユーザー同士が日本各地で勝手に会を開いてしまうような環境をつくりたいですね。
江里 4月の全面リニューアルで新しく「コミュニティ機能」も追加されたので、これをきっかけにどんどんユーザー主導の会が生まれてくるといいですね。
身近にいる菜園者を見つけてほしい
江里 最後に、いま家庭菜園をしたいと思っている人に向けて何かメッセージをいただけますか?
早野 身近にいる菜園者を見つけて、「あの人ができるなら私にもできる!」という感覚をつかんでもらいたいですね。本人が声に出さないだけで、野菜やハーブを育てている人は実は周りにたくさんいます。そういう人が身近で見つかれば、家庭菜園の敷居がぐんと下がるはずです。

元気に育っているハバネロ、クランベリー、いちじく。なんともユニークな組み合わせ
江里 そうした素敵なご近所さんを「Cropnet」で見つけられるかもしれませんよね。本日は、ありがとうございました!
早野 そうですね。家の窓際にそうしたスペースがあるだけで、癒しにもなります。こちらこそ、ありがとうございました。
インタビューを終えて
早野さんの話を聞いていて特に印象的だったのは、視点が家庭菜園よりも人々の”暮らし”に向いているということ。あくまで家庭菜園はツールであり、それをきっかけに生まれる豊かな暮らし(癒し、食事、コミュニティなど)が大切だと。
もちろん「Cropnet」が盛り上がることが一番うれしいですが、早野さんは「家庭菜園市場全体を盛り上げたい」と強く話していました。そのために様々な企業と組んでいきたいし、市場が、いや人々の暮らしが豊かになるのであれば他のサービスが生まれても構わないと。ゆったりと静かに話す早野さんの声には、家庭菜園への想いが熱く込められていました。
早野さんは、大学時代の”原体験”をきっかけに「Cropnet」を生みました。皆さんにも、そんな忘れ去られている大切な”原体験”があるはず。ぜひ、探してみてください。
(インタビュー日:2014年5月21日)
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