「アクアポニックス」と呼ばれる、「未来の農業」とよばれている栽培方法があります。簡単に説明すると、魚と野菜を一緒に育てることができる農法です。まさに、家庭用ビオトープ。
もうちょっと具体的に説明するには、まず「水耕栽培」という言葉に触れなくてはいけません。これは「水で耕す」と書く通り、植物を土を使わずに”水”で育てる農法です。
・2015年に日本上陸?お部屋に生態系がやってくる家庭用ビオトープ3つ
・未来の農業「アクアポニックス」で選ばれる代表的な魚3種類
・未来の農業「アクアポニックス」の循環の解説ーーバクテリアの働き
水で耕す農業?
たまにニュースで「レタスの植物工場が立ち上がった」といったことを耳にすることがありますが、ここでいう”植物工場”の多くは、水耕栽培をベースに設計されています。
巨大な施設に何層にも並ぶ野菜の列、それを照らすLEDライト。そんな言葉を聞くと「なんか人工的でいやっ!」と感じるかもしれませんが、水耕栽培には適した作物とそうでないものがあり、合ったものであれば栄養価はむしろ高まる、という話もあります。例えばトマトやイチゴは、よく選ばれる作物です。
他にも、成長速度が従来のものより早かったり(=生産性がアップ!)、設置場所を選ばなかったり(土が必要ない!)、屋内なので天候の影響を受けなかったり、さまざまなメリットがあります。
水耕栽培+魚の養殖=アクアポニックス
これに魚の養殖(水産養殖)の技術を組み合わせたものが、アクアポニックス(家庭用ビオトープ)です。水耕栽培であれば、養液(液体の栄養素)を別で入れないといけないのですが、これを「魚のフンで代用できるんじゃないか?」と誰かがひらめいて生まれた農法です。水耕栽培のオーガニック版とも言えるかもしれません。
魚を飼えばフンが発生しますので、それを植物が栄養として吸収し、さらには水を浄化します。浄化された水が魚の水槽へと戻り、また魚がフンをしてそれが植物へ、といった具合にどんどん循環するシステムです。ちょっとした”小さな生態系”です。
ちょっと詳しい歴史はわからないのですが、農法が広がった経緯としては、まずはアメリカで誕生し、それが徐々にオーストラリア、ヨーロッパ、中東地域へと広がっていったようです。日本では、まだまだ知られていません。
関連記事:アクアポニックスの歴史(古代〜現代)ーー循環型農法の軌跡を1000年前から振り返る
どんなメリットがあるの?
アクアポニックス(家庭用ビオトープ)には、いくつかの利点があります。ここではもっとも大事な7つを挙げてみたいと思います。
1. 設置場所や規模が自由自在
土を使わない農法「水耕栽培」がベースとなっているので、農地が必要なく、家の庭から屋上まで、さまざまな場所に設置できます。さらに、循環型システムなので、うまく回れば机に置けるサイズにまで小型化することもできます。もちろん、ビニールハウス内で大型展開することだって可能です。
関連記事:家庭でビオトープを楽しめる!米国で登場しているアクアポニックス栽培キット3選
2. メンテナンス負担を軽減できる
基本的な日々の管理は、魚のエサやりくらいです。あとは定期的な水質チェックと蒸発した水の追加くらい。植物に水やりをする必要がなければ、土を耕すといった力仕事を必要としません。
3. 生態系の縮図を体感できる
生き物のフン、死骸、食べ残しなど、自然界には無駄なものが一切ありません。アクアポニックス(家庭用ビオトープ)でも同じような循環が、魚、バクテリア、植物の関係内で起こります。これで全てがわかるとは言いませんが、「こんな風に自然は循環するんだ」という感覚を、日々の管理からそれを食べるまでのプロセスで感じることができます。
実際に海外では、生徒に生態系を体験してもらう目的として、このシステムを小学校などの教育機関に導入している事例も多くあるようです。
4. 水資源が乏しい地域で活用できる
これは水耕栽培にも通じることなのですが、従来の土を使う農業に比べて、使う水を90%まで節約することができるので、水に困っている地域でも設置ができます。オーストラリアや中東地域で広がっている大きな要因のひとつとして、このメリットがあるはずです。
5. 魚の養殖を同時に行うことができる
作物と同時に魚も育てる農法なので、種類の選びようによっては、魚も収穫して食べることができます。例えば、海外では「ティラピア」と呼ばれる繁殖が簡単な白身魚が選ばれ、収穫されたものが地元のレストランに並ぶということもあるようです。
6. 土づくりの必要がない
土を使わない”水耕栽培”ですので、土をつくる必要がありません。土づくりは、農業ではとても大事な作業ではありますが、時間がかかり身体にも負担をかけます。
従来の農業では植物は土から栄養を吸収しますが、アクアポニックス(家庭用ビオトープ)ではそれがフンとして魚の水槽から流れてくるので、耕す作業が必要ありません。
7. 無農薬の野菜しか生産できない
循環型農法なので、植物が受け取ったものは回り回って魚も受け取ることになります。もし農薬を使った場合は、植物に害はなくても、魚が死んでしまいます。
アクアポニックスシステム(家庭用ビオトープ)では、生き物に悪影響を及ぼす物質を使用することができないので、育った魚や作物は自然と無農薬になるのです。
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