こんにちは!おうち菜園の江里です。この前、デパ地下のハチミツ専門店で「巣ごとハチミツ」というものを買ってみたら、これがすごくおいしくて。キャラメルのような食感がたまらず、毎朝トーストにぬっていたほどです。
そんな話題から、今回はミツバチのお話。時をさかのぼること8年前の2006年、銀座のとあるビルの屋上では養蜂(ミツバチ飼育)が始まっていました。
「え?銀座でミツバチの飼育?あぶない!」と思うかもしれませんが、その心配は無用。むしろ、そこで生産されたハチミツを使ったスイーツやカクテルが誕生し、ミツバチを通して街が元気に。銀座での”地産地消”が実現しているんです。
そんな素晴らしい活動をしているのは、”都市養蜂”という分野のパイオニアでもある団体、NPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」(通称、銀ぱち)。今回、広報の田中さんに色々とお話をうかがうことができたので、その内容を一部紹介します。
お話を聞くなかで特にビックリしたのが、今までの活動で住民や地域から苦情をもらったことがほとんどないということ。”農”があまり結びつかない街”銀座”で、ここまで良い地域循環を作り出せているのは、何か秘訣があるのでしょうか。
聞き手:濱田
文 :江里
濱田 今日はお忙しい中お時間を作ってくださり、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。
田中さん(以下、田中) いえいえ、こちらこそよろしくお願いいたします。
濱田 まず、団体の概要について教えていただけますか。
田中 2006年から銀座の屋上でミツバチを買い始めまして、今年で9年目になります。ここで採れたハチミツを銀座のカクテルやスイーツに使っていただこうと活動している団体でございます。
自分たちでやるつもりはなかった
濱田 銀座で養蜂というとかなりインパクトがありますが、どういったきっかけで始まったのでしょうか。
田中 このビル(養蜂場と事務所がある”紙パルプ会館”)の3階では貸し会議室をやっておりまして、ここでは政治家からスイーツまでの様々な勉強会が日々開催。そのうちのひとつに食の勉強会があり、その講師が養蜂家の方で、当時屋上に場所を探されていました。
そこで、このビルの責任者で”銀ぱち”の現副理事長でもある田中淳夫が「うちのビルの屋上を使ってください」と伝えます。そうしたら「これでは商業用にはスペースが足りない」ということになり、「せっかくだから、あなた達でやったらどうですか?」ということで、自分たちが養蜂をやることになったんです。
濱田 そんなストーリーがあったのですね。
田中 銀座で養蜂をやるということになり、街の消防署や警察署などの方々に説明しに回ったら、もちろん最初は怪訝な顔をされました。
だけど銀座は元々、職人の街。新しいものを受け入れる文化があります。良いものと悪いものがフィルターにかけられ、良いものだけが残っていく。だから「とりあえずやってみたらどうか」と言われ、3ヵ月限定でスタートしました。
濱田 それが今年で9年目に。
田中 はい。「銀座の屋上でミツバチを飼っている」というのが結構なインパクトだったのか、様々なメディアが取材にくるようになりました。特に注目されるようになったきっかけは、文明堂の銀座の蜂蜜カステラです。
濱田 詳しく教えてください。
老浦も認めた”銀ぱち”ハチミツの味
田中 明治33年創業、カステラで有名な文明堂は、その質へのこだわりで有名です。どれだけ商品が売れていても、質が悪ければ売ることをやめてしまいます。その会社の方に実際に”銀ぱち”のハチミツをなめていただいたら「これは質が高い」ということになった。その場で食の人間国宝、森幸四郎さんへ連絡。高級な箱に入れてつくってもらえることになりました。
濱田 それはすごい。
田中 ハチミツは、私たちがぺろっとなめらたら、それで終わってしまいます。そうではなく、「街の方々に私たちのハチミツを使ってもらうのはどうか?」と考えるようになっていきました。
ミツバチの受粉でさくらんぼが実った
濱田 街にはどんな変化が現れたのでしょうか?
田中 例えば、ミツバチの受粉によって桜にさくらんぼが実りました。西洋ミツバチは半径4kmから蜜を集めてきます。そのときに蜜を集めるだけではなく、しっかり受粉を助けていたんです。この頃から、はじめは遠巻きで見ていた方々が「ミツバチも生態系の一部なんだ」ということに気づき、「環境によいことをしているなら応援する」と集まり、仲間が増えていきました。
他には、”ミツバチのためのお花畑”として「ビーガーデン」を13ヶ所に設置。地域との繋がりを持つために、農業の祭事「ファームエイド銀座」を年に3回開催しております。
濱田 どんどん銀座という街が活性化していくのがわかります。
ミツバチのための花畑・地域との繋がり
田中 「ビーガーデン」では、収穫祭や苗植え式を通じて、銀座クラブのママさんに着物姿のまま農作業をしていただいたのですが、これがすごいインパクト。地方から特産物を植えにきた知事や市長、町長が、記念撮影をするほど。地方は町のPRができるし、ママさんは銀座という街が盛り上がってうれしい。
「ファームエイド銀座」は、農薬に弱いミツバチを守るために「農薬をつかわない農家さんを応援しよう」という想いからスタートしました。農家さんは、農産物とともに地方から”文化”も運んできてくれます。これによって、たくさんの繋がりが生まれています。
例えば、岡山県にある人口1000人の村”新庄村”の方々に、伝統的な餅つき”4人搗き”をファームエイドで披露していただいたところ、「日本再発見塾」(日本各地の文化、伝統、歴史の魅力を改めて見いだす活動)の関係者の目にとまり、200人が新庄村に民泊することに。各界のトップリーダーが集まって街づくりについて語り合う場が実現しました。餅つきが町づくりに繋がったのです。
濱田 素晴らしい。
田中 誰が来るかわからないところに面白さがあります。「ファームエイド銀座」は今年で6年目。最初は赤字でしたが、いまではとんとんになっています。これも、運営にご協力いただいている農水省やボランティアの方々のおかげです。
街の人の環境への意識が変わった
濱田 さきほど「桜にさくらんぼが実った」というお話がありましたが、他に自然環境の側面で変化はありますか?
田中 街の人の意識が変わりました。街路樹を担当している中央区の”緑化部”の方々が、なるべく花を切らないようにしてくれたり、農薬を使わないでくれたり、環境にやさしい街づくりの意識が高まっています。
街の方々と接するとき、最初は「○○社さん」と企業名で呼んでいたのが「○○さん」と名前に変わり、どんどん仲良くもなっていきました。
濱田 ミツバチを飼う前と後では何か心境の変化はありますか?
田中 最初はやるつもりがなかったので、屋上でテナント業として「賃貸として貸せばハチミツがもらえるかも?」という感覚でした。「環境のためにミツバチを」という感覚もなかったです。でも実際にやってみると、コミュニティや地域との繋がりなど、目に見えない変化を感じるようになりました。
フタを開けてみたら苦情はほとんどなし
濱田 ミツバチというと「危ない」というイメージがありますが、安全性についてはどのように周囲の理解を得ていかれたのですか?
田中 迷惑をかけないために、最初は3ヵ月限定でスタートしました。しかし、その間ほとんど苦情がこなかったのです。
街で分蜂(ミツバチの群が新しい巣を探して飛び回ること)を起こしているミツバチがいたら、例えそれが私たちのものではなくても、すぐに現場に行って回収もします。今では中央区と綿密に連絡を取れるようになり、「駆除のときは保健所、保護のときは”銀ぱち”さん」という体制ができました。
ミツバチだって死にたくない。ちゃんと意志がある
濱田 ”銀ぱち”さんのミツバチは、すごく大人しいですよね。さきほど実際に養蜂場を見学して感じました。
田中 ミツバチには個体差があります。皇居まで飛んでいって蜜を集める個体がいれば、その辺の花屋さんで集める個体もいる。ちゃんと意志があるんです。だから、刺せば自分も死んでしまうことを分かっていて、「死にたくない」という感情も持っています。滅多に人は刺しません。
だから、うちの養蜂スタッフは素手で作業をしています。やさしく接すれば刺されることはありません。海外から視察にきた人は、「とてもジェントルだ」と驚きます。
ノウハウを隠さずどんどん教えた
濱田 「銀座で養蜂」というとキャッチーですが、実際にやっている人は日本中にたくさんいます。ただ収穫したハチミツを分けるだけではここまで注目もされないはず。これだけ話題になっているのは、何か要因があるんでしょうか?
田中 私たちは自分たちだけでクローズしません。例えば、”ミツバチプロジェクト”で商標登録をとれば、それはそれで儲かったかもしれませんが、そうはせずに「どんどんマネしてください」と周囲に伝えていった。やりたい人にはノウハウも提供しました。
「銀ぱちを超えてやるぞ!」と思っていただいても全然構いませんし、私たちも誰か面白いことをしている方がいたら、一緒に協力してやっていきたいですね。
大切なのは周囲との日々のコミュニケーション
濱田 おうち菜園では、実際に養蜂もやろうと考えているのですが、これから養蜂をやろうと思っている人へのアドバイスは何かありますか?
田中 周りの人たちとのコミュニケーション、つながりが何より大事。ここを大切にして、いかに”応援してもらう土台”を作れるかどうかが鍵です。
例えば、ミツバチが近所の花屋さんの花にフン(ほとんど見えませんが)をしてしまったとき、普段からコミュニケーションがとれていれば「いいよいいよ」となる。でも、ちゃんとできていないと「撤去して」となるかもしれません。
環境を応援する街をもっと
濱田 ”銀ぱち”としてのこれからの課題や夢を教えてください。
田中 2020年には東京でオリンピックが開催されるので、これからどんどん海外の人が日本にやってきます。そうした状況の中で、”環境立国”としての日本を押し出していけば、世界から尊敬される国になると思います。私たちが2006年からつくりあげてきた「街が環境を応援する」というような形が、これからどんどん増えていけば嬉しいです。
濱田 本日はありがとうございました。
田中 ありがとうございました。
1時間ほどお話を聞くなかで、何度も出てきたワードが「街づくり」「コミュニティ」「街の活性化」。去年ついに、ハチミツの収穫量が1トン(!)を超えたそうですが、それを田中さんは「ハチミツを生産することが目的ではない。街との繋がりです」と自信を持って話されていたのが印象的でした。
体長2cmにも満たないミツバチが、ハチミツを生産し、街の人々を繋ぎ、さらには生態系をも支えているのです。小学校の頃、ミツバチを見て「わー!こわいこわい!」と逃げていた自分に聞かせてあげたい話ばかりでした。
4月27日には、今年最初の「銀座ファームエイド」が開催されます。予約をすれば、1人1000円で養蜂場の見学会にも参加でき、はちみつのお土産もあるそう。興味のある方は、ぜひ公式サイトでチェックしてみてください。
そうでない方は、今度街でミツバチを見かけたときは、やさしい眼差しで見守ってあげてくださいね。
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